四国タオル工業組合の近藤寛司理事長の意見
今なぜ繊維セーフガードなのか
閉じる
タオル業界の主張
さる4月15日放映のNHKスペシャル「緊急経済討論会」にて、田中直毅理事長が平沼経済産業相とセーフガードを巡って議論しました。最近のエコノミストの主張は、概ね田中理事長と同じく下記のようなものですが、四国タオル工業組合理事長として地域経済の現場は、田中理事長がテレビで言われたような簡単なものではないということを反論させていただきます。
【エコノミストは市場を知らない】
人件費コストの圧倒的な差と、輸出国(中国)側でも今後技術改善があることを考えると、繊維セーフガード(TSG)によってタオル業界に時間を貸すことに意味がない、と三和総研の山崎元氏は主張します。またドイッチエ・アセット・マネージメントの津田栄氏は、世界のタオル製品の品質レベルが向上しているなかで、日本の業界は競争力を強化できなかった、と指摘したうえで、資本と技術の急速な自由化とグローバル化のなかで、ブランドの構築と浸透による商品の差別化がはかれてない、と断言されます。中国などから品質のあまり変わらないタオルが大量にしかも急速に輸入されるからといって、繊維セーフガードを申請するのは理屈が通らない、と言われます。
エコノミストとして公に意見を述べる場合、自分達の足でもう少し市場を調査してからモノを言って戴きたい。おそらく彼らは殆どタオル売り場など見たことがないか、今、話題の「しまむら」等の量販店のタオル売り場にしか行ったことがないのではないかと想像してしまいます。もし両氏が言う程度にしか我々が努力をしていないなら、東京、京阪神ほか全国の百貨店やその他専門店のタオル売り場では、どうして日本製のタオルが大半を占めているのかということです。それらの売り場での海外商品の割合は、現在の輸入占有率60%と同じ割合ではないのです。
確かに、単に体を拭くだけでしたら、開発輸入などで日本向けの輸入タオルが市場に多く出回っていることは事実です。しかしお洒落な生活を楽しみ、心が豊かになったり、来客に見られても恥ずかしくない商品を求める多くの消費者が集まる売り場のバイヤーは、安い海外商品ではなくて、次々と開発される魅力的な商品を自ずと売り場に並べてしまうということです。
繊維素材や産業資材の業界とタオルは同じ繊維でも明らかに異なっており、我々タオルメーカーは、自分達でデザインや用途開発まで企画し生産することができます。私自身も弊社が、例えば綿織物の生地織物業だったら10年前に廃業していたかも知れません。しかし、タオル産地には、ITで生産システムを変えようとしている企業、海外では真似のできない技術を売り物にする企業、異業種とのチームづくりをして独自の商品開発をしている企業、新しい流通システムを構築しようとしている企業など、圧倒的な人件費コストの差や輸出国(中国)側のキャッチアップを超越してゆこうと努力をしている多くの工場があります。だが、全ての工場がそうではありません。私たち組合執行部の任務は、今だ方向が見えていない工場が、繊維セーフガード発動期間の間に少しでも国際競争に打ち勝てる企業に変身できるようにしてゆくということです。
戻る
【TSG発動は消費者へ被害をもたらさない】
山崎、津田の両氏はTSG発動によって、輸入物の安いタオルを買えない消費者が被害を蒙ると言われます。タオルに限らず、規制によって消費者の負担するコスト額は明示される必要がある。加えて、こうした貿易制限措置が他の製品や、他の国に波及する可能性や、そのデメリットも考えなければならない、と主張されます。
関税を付加する農作物の暫定セーフガードと繊維セーフガード(TSG)を一緒にして、安易に価格が上昇するというような発言をしないで欲しいと思います。繊維セーフガードは関税を上乗せするものではなく、また輸入数量を減らすものでもなく、価格が上がる要素はありません。
昨年度の輸入タオル浸透率は57.5%で、そのうち約90%は中国とベトナムからの輸入です。その2国に今秋TSGを発動したとしても、現在も輸入は増えていますので、発動段階で浸透率は60%を超えます。そこから1年目が前年比100%、2年目、3年目が106%とすると、3年後の輸入浸透率は70%を遥かに超えてしまい、デフレ経済で国内消費が増えないなか、輸入品は現在比20数%も増加してしまいます。
もし、欧米のようにクォータ制で輸入数量を総量規制したり、減らすのであれば価格が上がることもあるでしょう。また、輸入浸透率が70数%になった段階でも消費者は、相変わらず安い輸入品と値段は高くとも付加価値が認められる国産品の双方を選ぶ権利は消費者に委ねられています。これがどうして消費者に被害が及ぶというのでしょうか。
戻る
【転業サポートを主張するエコノミストの無責任さ】
山崎氏は繊維セーフガードの3年間で日本のタオル業界が十分な競争力を持てないとすれば、資本や労働力といった資源をタオル業界に残すことをサポートする輸入制限よりも、転業を促進するサポートを考える方がずっといい、と主張されます。
こういうことを言う実体経済を理解していないエコノミスト、一部の学識経験者が日本にはたくさんいて、したり顔で公にモノを言うのは困ったものだと思います。そういう人たちに、今の日本を救うアイディアや気概があるとは思えません。
今治市を中心とした四国タオル産地には、数千人のタオル企業直接従業員、関連企業を含めて2万人に近い従業者がいます。全国には180万人とも言われる繊維関連の雇用を抱えています。その全てをTSGで救える訳ではないし、そうする必要もないと思います。しかし、現在のデフレ傾向の経済は、まさに沈みかかったタイタニック号で、国、政治、そして我々も一体になって早く手を打たなければ沈没してしまいます。タオル産地を充分にご理解されていないと思われるなかで、転職促進をサポートなど無責任な発言には驚きます。こんな発言をする人は、ご自身が事業を起こしたとしても1年と持たないでしょう。これまで日本経済を支えてきた中小企業に全てこの論法を当て嵌めるとしたら、それらの企業の税収と雇用を誰がどうやって肩代わりするつもりでしょうか。教えていただきたい。今すぐ、四国今治の地域経済が活性化し、商店街の空き店舗が埋まる政策を教えていただきたい。
最近、構造改革とか産業の構造転換とか安易に言葉を羅列してモノを言う人が多いのですが、私に言わせればそんな言葉の遊びで飯が食える日本の経営コンサルタントこそ構造改革が求められていると言わざるを得ません。近い将来、海外の企業が日本に多く進出した時、これらの上面だけのエコノミストに海外の企業がコンサルティングなど依頼すると思ったら大間違いですし、そんなエコノミストは、トンネルの出口が見えない今日の日本経済界からも必要とされていません。
はっきり言っておきます。私たちは業界エゴでTSG発動を訴えているわけではありません。我々の産地にも自分たちが取組まねばならない問題点がたくさんありますが、タオル業界だけでなく、日本の地域経済を支えてきた多くの中小企業や製造業がなぜ今日の厳しい状況に陥ったか、TSGの発動申請をする事態に陥ったか、そのことを国民の皆さんが考え、大事な事は何なのか議論をして欲しいのです。
戻る
【国内の厳しい経営環境】
WTOは1995年からスタートしましたが、10年も前から世界貿易の方向は自由化に進み、いずれ垣根がなくなることはウルグアイ・ラウンドの場でも協議され、明らかな事実でありました。世界諸国はWTOスタートから10年の間に、自国の産業の国際競争力を強化することが急務であり、国内産業の活性化が自国経済の発展に繋がることを前提として様々な国内施策を打ってきました。一方でWTO下の通商政策を駆使しながら、また時には保護政策をも取りながら来るべきグローバル社会の中で元気のいい国として生き残る方策を模索してきました。しかし、日本はこの10年間に如何なる手を打ったのでしょうか。
日本の電力小売自由化が始まって1年ですが、今だに我々の支払う電力料金は以前のままです。液化天然ガスの値段は国際価格で同じなのに、それを使って発電する電力はどうして諸外国に比べて異常に高いのでしょうか。国際エネルギー機関(IEA)のデータでは、1998年の日本の電力料金は1キロワット時当り、産業用で15.3円です。米国、フランスや韓国と比較して実に2.1〜3.0倍です。重油も韓国の倍の価格です 。
私の工場は今治で中堅規模ですが、それでも年間一千数百万円からの電気料金を支払います。それ以外に支払う染色加工賃のコストのなかで電気と重油のコストはあわせて約20%です。それに刺繍やほかの加工に使用する電力料金、また高い輸送費の中のガソリン代など、すべて海外の2〜3倍もし、それが国内産業の国際競争力を弱くしていることはエコノミストの人たちはお分かりでしょうか。
あるエコノミストが、国内のトマト・ハウス栽培業者が、韓国産のトマトに殆ど市場を奪われていることで、競争力のない分野は早く消えるべし、と言っています。我々経営者でしたら、その業態のコスト構成をまず調べてからモノを言うでしょう。私の知人のハウス栽培業は土地代がただ同然の山の中で自動化栽培をしており、人など殆どいないのです。それでどうして国際競争に勝てないのか?彼らのコストの中で多くを占めるのが重油です。我々タオル業界でも世界最新鋭の設備を導入しますと、大きな駆動モーターは電気料金が安い欧州用に想定されたものです。そんな逆風の中で我々は付加価値をつけるということで頑張っていますが、ものには限度があります。もしこれらのエネルギーコストが3分の1だとしたら、もう少し販売価格を抑えることが出来るでしょうし、廃業する仲間も減ることでしょう。これらの問題は単にタオル業界だけのことではありません。今日のグローバル社会で国際競争に打ち勝てる産業育成を言う前に、まずはこの問題解決が急務です。
エコノミストのようにこのことには全く触れないで、簡単に既存産業の放棄をしてしまって、日本はどの分野で何でもって税収と雇用を確保しようというのでしょうか。国はいま瀕死の状態です。民間企業ならば、このようなときに企業のトップは社員の福祉とか雇用を如何に確保するかよりも、どう存続させるかが目先の問題なのであります。国や政治家も強いリーダーシップを持ってこのエネルギー問題を解決し、その解決がつくまでの間、TSG発動、その他我々の構造改革等様々な手段を講じ、また併せてそれらの理解を国民に伝えることが肝要と思います。
戻る
【国内産業の活性化は国策】
生き馬の目を抜くような経験をしたことがない人たちは、次のように言っています。「こういう問題については、『(国際的な)ルールで認められている』とか『外国(米国)でも事例がある』といった論拠にならないポイントを説く論者がしばしば登場します。例えば日本にとって高品質で競争力のある機械や電気製品、ハイテク製品などについて中国や東南アジアなどから輸入制限など手痛い報復を受けることもあり得る。」
これまで日本政府の産業振興策は国内産業への補助という形を中心にとってきました。欧米やアジア諸国では、産業政策はまずは通商政策が中心であり、国益を守ることを真っ先に考えます。後は民間で勝手にやり、残る所だけ残りなさいという考えです。
先日、日本の化繊協会がポリエステル化繊綿の価格をめぐって、台湾、韓国の業者を相手取ってアンチダンピングの発動要請をしました。これは欧米や中国が積極的に輸入規制をした煽りで行き場のなくなったポリエステル綿が日本に流入したということです。また先般2月末に我々がTSG申請をしてからたった2週間後、中国から中国紡織品進出商会という政府の輸出入管理の一行が中国タオル企業の経営者を伴ってやってきました。そして自国の産業を守るために、自己主張をして帰っていきました。私はその一行との会議でハッキリと次のように言いました。「TSGは、中国に喧嘩を売っているのではない。もしこのことで報復措置や進出企業に制裁を加えるようなことをしたら、結果的には中国の為にはならない。TSGが終わったら、互いに魅力的な日本市場の中で良好な関係で国際分業を進めよう。」
各国ともにまさに経済戦争を戦っているわけで、一部のエコノミストのようにTSGの発動で報復措置があるなどという軟弱なことを言っていたら国際競争には勝てませんし、日本人は将来の豊かな生活など望むべくもないのです。そのときには、いま訳のわからない経済理論を振りかざしているエコノミストなど、海外の実体経済にスタンスをおくしたたかな同業者に取って代わられることでしょう。欧米諸国でもそうですが、消費者の様々な意見を聞く前に、WTOの自由化ルールがあろうとなかろうと、まずは自国の産業を守るために体を張ってモノを言っているのです。
個々の企業も同じで、我々経営者は自社の存続と社員、その家族を守るために、多少むちゃであっても外に対して主張する所はハッキリとモノを言います。どのような企業にも強い部分と弱い部分があります。しかし弱い部分だからといって簡単に捨ててしまうわけにはいきません。企業も産地もある程度のボリュームは必要です。世の中、綺麗ごとでは済まないのです。
今回のエコノミストのなかに「今年、参議院選を控えて自民党などの圧力で経済産業省が動いた」などという幼稚な意見があります。くどいようですが、国内産業の活性化は、国策なのです。ここでアメリカ合衆国の一例を挙げます。その昔、レーガン元大統領がアメリカの繊維産業振興のためにある法案を改正しました。カリビアン沿岸諸国経済振興法(CBI)とかいう施策です。これはアメリカの綿花を使用し、国内織物業者が生産、裁断業者が裁断したアメリカ産の衣料生地を労働コストの安いカリブ海沿岸諸国の指定工場で縫製した後にアメリカに再輸入をましたが、その際アメリカの厳しい総量規制と関税をフリーにして海外商品との競争力をつけるという施策です。これによって国内産業振興と税収、雇用の確保を図るということです。本来、政治と経済は一体であります。
いまの日本にこんなダイナミックでグローバルな政策が見える経済専門家がいるのでしょうか?アメリカには、大統領を支える3000人にも及ぶ各分野の専門家や経営者がいて、このような政策立案をするということです。TSGがユニクロにとって死活問題だとか、自分の奥さんにとってデメリットだとか、一元的で井戸端会議的な情けない発想しかできないエコノミストがいます。しかし、日本の生地を使用し、中国で縫製したフリースはTSGの枠から外すような中国との交渉を議論することも、我々経営者としてはやるべし、と思います。
日本のように一部の民間輸出企業が血の滲むような努力をした結果、高度成長を実現した、その庇護の陰で実体経済が解らなくても勤まる多くのコンサルタントやらが成り立ってきたのです。これからは経済が解らない学識経験者、経済評論家、政治家が存在していては、国際社会では生き残れないと思います。TSGの発動に向けてついつい熱くなってしまいましたし、本来モノを書くのが本業ではありませんので、上手く表現できませんが、真意はご理解戴けたものと思います。
田中理事長には、ぜひともご覧戴き、ご異議がありましたらお聞かせ戴きたいと思います。
(近藤寛司・男・50代・団体役員・愛媛県)
戻る
閉じる
Copy right 2001 四国タオル工業組合 All Right Reserved